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【感想】映画ドラえもん のび太の月面探査記

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毎春のお楽しみ映画ドラえもん。
今年はリメイク作の大魔境と日本誕生を手がけた八鍬新之介氏が監督、ミステリ作家の辻村深月氏が脚本を手がける「映画ドラえもん のび太の月面探査記」。

八鍬監督が手がけた2作は完成度が高く、特に新・日本誕生は水田ドラの中でも1番か2番目に素晴らしい作品(甲乙付け難いのはのび太の恐竜2006)で、また監督・脚本を手がけたクレヨンしんちゃん外伝のおもちゃウォーズも良かった(特にラストのしんのすけのセリフ)

昨年の宝島がSTAND BY MEばりに酷かった中、安定感のある八鍬監督ということで期待して観に行った月面探査記。その感想を語る。以下、ネタバレをふんだんに含むので注意されたし。

 

 

良かった点

良かった点は3つ
『ドラえもん』へのリスペクトに溢れていること、映像の綺麗さ、中だるみがないことだ。

 

脚本の辻村深月氏はドラえもん好きで知られ、自身の作品の章題にひみつ道具をあてたり、作中にドラえもんの小ネタを挟んだりしている。

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新川直司(原作: 辻村深月)「冷たい校舎の時は止まる(1)」月刊少年マガジンコミックス

本作でも話の各所に今までの映画ドラのオマージュが散りばめられており、「あっこれは魔界大冒険だな」「ブリキの大迷宮みたい」と思った方も多いだろう。

また冒頭部、特にOP映像は宇宙漂流記〜ふしぎ風使いあたりに雰囲気が似ており、あまりの完成度の高さにあわやOPから泣きそうになった。
直近の2作ではOP曲を流しながら映画が進行したり(南極カチコチ大冒険)、そもそもOP曲すら流れなかった(宝島)が、
のび太の「ドラえもーーーん!!!」からのOP映像の流れは、これから映画が始まるぞという合図のように思っているので、あると安心するし気分も盛り上がる。例えるならジェットコースターで最初に登る坂のようなものか。

 

映像の綺麗さは他の映画ドラも同様だが、今作はルカとのび太が初めて出会うシーンの色彩が印象的だった。
映画ドラえもんって子ども向けかと思いきや演出も凝っていてそちらを楽しむのも面白い。南極カチコチ大冒険(特に冒頭と南極横断のシーン)が随一だと思ってる。

 

中だるみのなさは、上で挙げたオマージュを探すのもそうだし、
合間あいまにコミカルなシーンが入っているのが適度に息抜きになって、最後まで集中力を切らさずに観ていられる。
伏線も丁寧に張られ回収されているので、自分で考えながら観入ることができる。
このあたりはドラえもん好きで力量あるミステリ作家だからこそなせる技だろう。

 

 

悪かった点

悪かった点は2つ
ラストがごちゃごちゃしていたことと、のび太とドラえもんが諦観しすぎていることが挙げられる。

 

ラストはディアボロの正体→決戦→ルカらがカグヤ星から旅立つ→月面でのび太らと別れるが一息に展開される。
息つく間もなく話が進む上、急展開すぎて観客を置いてけぼりにしている感が否めない。

ディアボロの正体ぐらいはまだしも、ルカらがカグヤ星に残らないのを決めた理由や普通の人間になりたいという願いも、伏線が弱すぎてイマイチ感情移入しづらかった。前半にチラッと暗示されているぐらいだもん。

水田ドラだとのび太の恐竜や日本誕生の別れのシーンが秀逸だ。前者は恐竜ハンターの決戦の後ゆったりとしたつなぎが入りつつのび太がピー助の成長を感じたところで別れのシーンに入り、後者も話全体を通して親と子の関係が強調され、のび太と3匹のペットらの親子のように接するシーンが繰り返し展開されていたからこそ、あそこまで感動的なシーンになっている。

本作はラストでの説得力が弱いように感じた。

 

話の各所でのび太とルカの会話のシーンがあるが、ほとんど悩めるルカにのび太がアドバイスするような内容になっている。のび太のセリフがえらく断定的というか達観しすぎで、なんとなくのび太のセリフというよりは無理やり言わされているセリフのようだった。別れのシーンでものび太の所作が大人っぽすぎて違和感を覚える。

ドラえもんもディアボロに対するセリフも、やはり無理やり言わされているような感じだった。
ひみつ道具博物館の「君はいいヤツだな」とか、新・日本誕生の石槍を投げてからの「偽物の歴史が本当の歴史に勝てるわけないんだ!」ならドラえもんいいこと言うなぁ!って思うが、急に「想像力は未来だ! 人への思いやりだ! それを諦めた時に破壊が生まれるんだ!」って言われても・・・。

のび太もドラえもんもそのセリフをいう必然性が薄かった。

 

 

まとめ

月面探査記では想像力がテーマとして掲げられている。
キャッチコピーの「信じる力が僕らをつなぐ」や上で挙げたドラえもんの「想像力は〜」のセリフ、別れのシーンでも想像力のワードが出てくるし、「異説」も想像力の結果だ。
ただそれを伝えるために無理やり話が作られている感じは拭えず、登場人物らの言動に違和感を感じたり、感情移入しきれなかった。

ただちょっとしたIFから大冒険に発展していくワクワク感や、「ドラえもん」そのものは丁寧に描かれ、映画自体も最後まで見やすく作られていた。

ぜひ八鍬監督と辻村氏のコンビで、今後も映画を作って欲しいと願う一作だった。

 

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来年の映画の予想

毎年恒例の来年の映画予告、今年はいろいろと物議を醸している。

ピンクのもやが出たと思ったら実はティラノサウルスの吐息で、ドラえもんがブラキオサウルスの上に乗って逃れつつ、プテラノドンが飛びかう白亜紀の森を見おろし、のび太ら4人が挨拶をするという内容だった。

最近はリメイクとオリジナルが交互に上映されており、その流れでいくと来年はリメイクだ。
ただ去年の宝島は南海大冒険を下敷きにしながらもオリジナルといって差し支えがないし、来年は映画ドラえもん40作品目の年で、あえてオリジナルが制作されるという予想もある。

ピンクのもやというばアニマル惑星だが、恐竜は登場しない。ただのエフェクトとも捉えられるが意味もなくピンクのもやにするとは考えられない。ニムゲの星とカグヤ星をリンクさせたかったのかしら・・・・・・。

恐竜が登場する映画としてのび太の恐竜、竜の騎士、創世日記、銀河超特急がある。
空の様子をキチンとみていなかったので地下世界なのかは判別ができないが、竜の騎士なら作中に登場したピッカリゴケを使いそうなものだ。
オルニトミムスがいないが3体の恐竜は銀河超特急でも出てきたが、他にも印象的な星や銀河鉄道があるなか、恐竜の星をヒントにするのはいささか疑問が残る。
創世日記も恐竜は重要な部分ではない。

残るはのび太の恐竜だが、これは2006年にリメイクされている。ただ今までのおまけにのび太らが登場したことはなく、キリのよい40作品目ということも踏まえると何か特別な作品になるのではないかと考えられる。大山・水田それぞれの第1作のび太の恐竜の再リメイクや下敷きにしたオリジナルストーリーは十二分にありうる話だ(来年の監督は旧作を下敷きにオリジナルを展開した宝島の今井一暁氏)OP映像にピー助が映ってのも気になる・・・。

ぼくとしてはのび太の恐竜が再びくるのではないかと思っている。

 

(追記 2019/07/05)
来年の映画の情報がリリースされた。

予想どおりのび太の恐竜の再リメイクだった。
特報映像によると宝島の今井監督と脚本・川村元気氏のコンビで、双子の恐竜が登場する大胆アレンジのようだ。(川村氏の狙いすぎた脚本はあまり好きではないので、落胆している)

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